── “正しい数字”を“伝わる言葉”に変える技術
🧩 本記事は、シリーズ「数字で語れる力」第4回です。
前回は「数字で意思決定する力」をテーマに、数字を使って“納得できる判断”を下す方法を紹介しました。
今回はその“決めた数字”をどう使うか──
つまり、数字を「伝わる言葉」に変える力について掘り下げていきます。
なぜ「数字で語る」だけでは伝わらないのか
試作評価のデータをまとめ、根拠を丁寧に説明したのに、上司や他部署から「結局、やる価値あるの?」と返された経験はありませんか?
多くの場合、それは「正しいことを言っているのに、伝わっていない」という状況です。
開発者は「データの整合性」や「実験条件の正確さ」を重視します。
一方、マネジメント層や営業は「コスト」「納期」「市場インパクト」で判断します。
つまり、同じ数字でも“見る角度”が違うのです。
数字を伝える目的は、技術的な正しさを主張することではなく、相手が次の行動を取りやすくすること。
そこを意識できるかどうかで、提案の通り方は大きく変わります。
伝わる数字の3条件(RCAフレーム)
技術報告や企画提案を「伝わる形」に変えるには、3つの視点を意識しましょう。
| 要素 | 意味 | ポイント |
|---|---|---|
| R:Relevance(関連性) | 相手にとって関係ある話か | 「自分ごと」として理解できるか |
| C:Clarity(明瞭性) | 一目で分かるか | グラフ・単位・比較軸を整理できているか |
| A:Actionability(行動性) | 次の行動が分かるか | 「だから何をするのか?」が明示されているか |
たとえば、
「試作2号機の電力効率が18%改善しました」ではなく、
「試作2号機の電力効率が18%改善し、月間電力コストで約40万円削減見込みです」と言うだけで、伝わり方がまるで変わります。
数字に“物語”を添える(NICA法)
数字だけ並べても、相手の心には届きません。
伝えるときに“物語”を添えると、数字は一気に力を持ちます。
それを形にしたのが「NICA法」です。
| 要素 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| N:Narrative(状況) | 何が起きているか | 「顧客満足度が昨年より10%低下しています。」 |
| I:Insight(気づき) | どんな示唆があるか | 「応答時間が平均2分遅くなっていました。」 |
| C:Cause(原因) | なぜ起きたのか | 「問い合わせが特定時間帯に集中していました。」 |
| A:Action(対策) | どう動くのか | 「ピーク時間の担当を増やし、処理時間を短縮します。」 |
数字はNICAで語ると、“報告”ではなく“ストーリー”になります。
聞き手は「どうすればいいのか」が自然と理解できるようになります。
グラフで伝える5つのルール
グラフや資料も、伝える力の一部です。
「見せ方」ひとつで、同じ数字でも印象が大きく変わります。
1️⃣ タイトルで結論を書く
「新製品投入で売上+20%」など、”何を伝えたいか”を先に書く。
2️⃣ 比較軸は一つに絞る
“何を比べているのか”が一目で分かるようにする。
3️⃣ 色に意味を持たせる
強調したい棒や線だけ色を変え、他はグレーなど控えめに。
4️⃣ 余白を恐れない
情報を詰め込みすぎず、伝えたい数字を際立たせる。
5️⃣ 注釈で“読みどころ”を伝える
グラフ上に「この変化がポイント!」など一言添える。
“見せる”資料ではなく、“伝わる”資料をつくる。
それだけで、説明の理解度は驚くほど変わります。
数字を“共有”して動かす仕組みをつくる
数字は発表して終わりではなく、チームで共有して動かすためのものです。
- 定例会で「数字+気づき+次の一手」を共有する
- NotionやSlackに“週1ミニレポート”を投稿して更新する
- KPIを「チーム全員で決める」場を設ける
共有の“場”をつくることで、数字が“会話の共通言語”になります。
結果、判断や行動のスピードも上がっていきます。
実体験を“刺さる伝え方”に変える
一番伝わるのは、あなた自身の経験です。
失敗も成功も、数字で振り返ると説得力が増します。
たとえば、
- 「A案を選んだら成果は20%伸びたが、想定より2週間遅れた」
- 「B案では早く終わったが、再作業コストが1.5倍だった」
こうした“感情+数字”のセットで語ると、相手にリアルが伝わります。
数字を“盾”ではなく、“信頼の証拠”として使うのです。
まとめ:数字は、相手を動かすための言葉
数字を扱う力は、次のステップで完成します。
1️⃣ 見る(観察する)
2️⃣ 分ける(分析する)
3️⃣ 語る(説明する)
4️⃣ 伝える(行動に変える)
正しいだけでは伝わらない。
伝わって、はじめて数字は「生きた言葉」になります。
💡 次回予告
次回は「数字で決める力(最終回)」。
同じ数字でも、判断の枠組みが違えば結論も変わります。
リスク・不確実性・機会損失を見極めながら、“正しく決める”ための思考法を紹介します。
📘 「数字で語れる力」シリーズ一覧
1️⃣ 第1回:なぜ「数字で語れる力」が必要なのか
2️⃣ 第2回:数字で課題を見える化する力
3️⃣ 第3回:数字で意思決定する力
4️⃣ 第4回:数字で伝える力(本記事)
5️⃣ 第5回:数字で成果につなげる力(準備中)
