── “結果を示す数字”を“再現できる知見”に変える技術
🧩 本記事は、シリーズ「数字で語れる力」第5回です。
前回は「数字で伝える力」をテーマに、相手を動かすための“伝え方”を紹介しました。
今回はその次のステップ──
伝えた先の行動や結果をどう「数字でつなげるか」。
つまり、数字を「成果」に変える力について掘り下げていきます。
数字は“報告”で終わらせない
会議でKPIや実績を報告しても、「ふーん」で終わってしまうこと、ありませんか?
数字を“結果の確認”だけに使うと、改善の芽が生まれません。
大切なのは、数字を「次の改善の出発点」として扱うことです。
研究開発の現場でも同じです。
試作データや歩留まり率、不良率の変動を「確認」して終わらせるのではなく、
「なぜそうなったのか」「どう再現できるか」を考えることで、数字が“知見”に変わるのです。
成果を再現可能にする「PRAサイクル」
製造業のR&D現場では、一般的な「PDCAサイクル」では回しきれない場面が多くあります。
なぜなら、研究開発は“予定通り進まないことが前提”だからです。
そこで有効なのが、成果を学びの循環で再現可能にする「PRAサイクル(Plan–Run–Assess)」です。
| ステップ | 意味 | 研究開発での例 |
|---|---|---|
| P:Plan(設計) | 成果を数値で定義し、仮説を立てる | 「リードタイムを20%短縮」「材料ロスを半減」など、ゴールを定量化する。 |
| R:Run(試行) | 仮説を試し、実験・検証を行う | 実験条件・担当・コスト・結果を記録する。 |
| A:Assess(評価) | 実績を振り返り、学びを抽出する | 「なぜ上手くいった/いかなかったか」を整理し、次の試行へ繋げる。 |
PRAは、“知見を増やすためのサイクル”です。
失敗や想定外の結果も、「何を学んだか」を数字で残すことで、再現可能な知識になります。
PDCAとの違いを整理する
| 項目 | PDCA | PRA |
|---|---|---|
| 主な目的 | 業務を安定化させる | 成果を再現可能にする |
| 想定環境 | 既知・安定(生産・品質管理) | 未知・変動(研究・試作・新技術) |
| 実行段階 | Do(実行):計画通りに行う | Run(試行):仮説を検証しながら行う |
| 評価段階 | Act(是正):標準化・対策 | Assess(評価):知見の抽出・仮説修正 |
| 評価基準 | 逸脱を減らしたか | 学びを得られたか |
PDCAが「誤差を減らすためのループ」だとすれば、
PRAは「知見を増やすためのループ」です。
R&Dでは、成功も失敗も“学び”として数字に残すことが、次の成果を生む源泉になります。
「成果を語る」ための3つの数字軸
成果を説明するときに、“頑張りました”だけでは伝わりません。
数字をもとに成果を語るときは、次の3つの軸を意識すると、相手に伝わりやすくなります。
1️⃣ インパクト軸(何にどれだけ効いたか)
→ 「試作コスト−15%」「歩留まり+8%」「不良率−0.3pt」など、具体的に数字で示します。
2️⃣ 再現性軸(他でも再現できるか)
→ 「条件変更でも同傾向」「他ラインでも再現確認済み」など、汎用性を示します。
3️⃣ 波及軸(どこまで広げられるか)
→ 「他機種にも転用可」「標準手順として全社展開予定」など、波及の範囲を明確にします。
成果を“出す”だけでなく、“語れる形で残す”。
これが、研究開発職における信頼と再現力の源になります。
数字で“チーム成果”を見える化する
個人の改善も大切ですが、最終的に価値を生むのはチーム全体での成果の共有です。
- チーム単位で「達成度・改善度・波及度」を数値化する
- 定量データに加えて、NICA法に基づいた定性コメントを残す
- 成果を「属人的」なものから「組織的な知見」に変える
💡 例:「年間改善指標スコア表」
| メンバー | 改善件数 | コスト効果 | 波及度 | コメント |
|---|---|---|---|---|
| Aさん | 5 | △3.2百万円 | ◎ | 新治具設計により歩留まり+12% |
| Bさん | 3 | △1.1百万円 | ○ | 材料見直しで再現性+5%改善 |
数字が共通言語になると、メンバー同士の認識が揃い、議論の質も高まります。
成果を“次の改善”に繋げる数字の残し方
成果は“終わり”ではなく、“次のスタート”です。
数字を記録するだけでなく、「なぜ」「どうすれば」を一緒に残しましょう。
NotionやExcelを使えば、
「成果 → 課題 → 次アクション」を1行で繋げることができます。
📊 改善ログ例
対象:プロセスX改善効果:生産性+12%限界要因:部材Yの再現性不足次アクション:材料変更案を試作No.56で再評価
数字を“報告資料”で終わらせず、
次の改善を生む「設計図」に変えていくことがポイントです。
数字で語れるチームが“成果文化”をつくる
数字を共通言語にできるチームは、議論が建設的になります。
成功も失敗も数字で共有すれば、「責任」ではなく「信頼」の文化が生まれます。
「数字で語る」ことは、単なるスキルではなく、組織文化の礎です。
定量的な議論ができる職場は、再現力とスピードが圧倒的に違います。
まとめ:数字は成果を再現するための“知の記録”
数字は“結果を示す”ためのものではなく、
“成果を再現する”ための知識です。
研究開発の現場で、数字を「報告→学習→改善」のサイクルで回すことで、
個人の経験がチームの知見に変わり、組織全体の競争力が高まります。
💡 次回予告(シリーズ完結編)
これでシリーズ「数字で語れる力」は最終回です!
次は全5回をまとめた「数字で語れる力マップ」を公開予定です。
自分の“数字スキル”を棚卸しできるチェックリスト形式で、
あなたの成長を“見える化”できる内容にしていきます。
📘 シリーズ一覧
1️⃣ 第1回:なぜ「数字で語れる力」が必要なのか
2️⃣ 第2回:数字で課題を見える化する力
3️⃣ 第3回:数字で意思決定する力
4️⃣ 第4回:数字で伝える力
5️⃣ 第5回:数字で成果につなげる力(本記事)





